こだわりポイント・その3 声
物語を彩る最重要のもの、それが『声』です。
「いつ・どこで・だれが・なにを」のうちの『だれが』を補助する役割を担っています。
『声』を発せば空気が震え、音が広がっていきます。
そして音が障害物に当たれば、跳ね返り、拡散し、耳に届きます。
それはたとえ日常のどんな場所にいたとしても起こる現象で、またその際に聴こえる残響音というのは場所によってさまざまです。
リビング、ダイニング。
トイレ、浴室、書斎、玄関。
庭、住宅街、市街地。
ショッピングセンターから森、布団の中まで。
演者が立つ場所・空間の構造によって、耳に伝わる『声』は異なります。
本作では、わざと『声』を響かせることによって空間というものを視聴者に伝えます。
また、キャラクターの現在地を毎度確認しながら、残響音を変化。
これにより、『空間的な奥行き』と『空間の雰囲気』を人間の経験から基づく潜在的センスで感じ取ることが可能です。
さらに、キャラクターとの距離に応じて音の響かせ方を変化させています。
距離が離れれば、発せられた音が直接耳に届く『ダイレクト・サウンド』は小さくなり、反して残響音が耳にしつこくこびりつきます。
逆に距離が縮まれば、『ダイレクト・サウンド』が耳に入る『声』のほとんどを占めるようになり、残響音は聴こえにくくなります。
そして、キャラクターがそっぽを向いていたとすれば、残響音はそのままにしつつ『ダイレクト・サウンド』を小さくすればいいのです。
また、距離を出そうと思えばEQで「200~300Hz」を削るといいという事実がありますので、そちらも利用。
これにより、キャラクターが『どのような空間内』の『どこにいるのか』を感じ取ることができるはずです。
また、今回は0.0dBに近付けるべき音圧を敢えて目指さず、アタック音を活かした自然な音を作り上げました。
音圧を整えることによる音の歪みを失くすため、『ラウドネス値』(音の単純な大きさではなく、人間が聴覚的に感じる音の大きさ)を計る『ラウドネス・メーター』を導入し、音量を調節。
音の歪みは機械で作った音ゆえに、リアル感を損ないますので、今回はこういう手法で。
『ラウドネス値』に沿った音量ですので、聴き疲れすることなく作品に没頭できるかと。
バイノーラルマイクを使わずして、どこまで物足りなさを感じさせずにリアル感を損なわない音作りをするか。
今作では、こういったこだわりで作られています。